地味葬時代 (東京新聞 2003.9.24)

「仰々しくなく、ひっそり逝きたい」。最近、肉親や自分の葬儀を簡素に行う”地味葬”を望む人が増えている。会葬者数や葬儀費用は年々減る傾向。首都圏では式典をせず、火葬のみで済ます形が全体の一割という。背景には不況や家族関係の変化などがありそうだ。(藤 英樹)
柩+霊柩車+火葬≒10万円
横浜市のA子さん(67)は9年前に夫を亡くした。子どもはなく、一人暮らし。夫の葬儀は気も動転していて、亡くなった病院と提携している葬儀会社に頼んだ。「予想以上にお金がかかった」とA子さんは悔やむ。
「交際範囲は限られ、今さら隣近所に見えを張る必要もない。私のときは仰々しいのは一切止めて欲しい。火葬だけでいいと、甥や姪に遺言をしたためました」
同市内の生協系の葬儀会社「コープ総合葬祭」によれば、最近は「柩と霊柩車と火葬の三つだけでいい、という相談も目立つ」という。これなら費用は10万円そこそこ。
「葬儀の低価格化を」という会員の要望を受けて7年前に設立された同社は、「一般業者から百万円安」を売り物に実績を伸ばしてきた。それでも「平均会葬者数、葬儀費用とも年々減っている」と八木芳久・企画部長は明かす。
「理由はさまざま。少子化で、一夫婦が双方の親4人の葬儀を営まなければならない時代、長引く不況でそんなにお金はかけられない。さらに高齢化で、付き合いが切れた現役時代の会社関係者などを義理で呼ぶ必要はない、という意識も広がっているようです」八木さんはこうした地味葬の流れは今後も続くと予想する。ただし、会葬者を極端に減らすと「香典が減り、逆に出資が増えてしまう」と注意を促す。博報堂生活総合研究所が昨年暮れ、首都圏の10~70代の男女365人に葬式について聞いたところ、全体の76%が「本人の遺志なら」と地味葬など新しい葬式を支持。30~40代の女性では9割近く、50~70代の男性でも6割を超えた。
「葬儀の意味」についても、76%が「親しかった人との別れの場」と定義し、「社会的な儀礼」(14%)を圧倒。「会葬者の範囲」もほぼ全員が「親族と親しい友人」を挙げ、「仕事、会社関係者」(28%)などを上回った。平均約40万円かかる戒名は、7割が「不要」と答えた。
葬儀情報に詳しい第一生命経済研究所の小谷みどり・副主任研究員は地味葬の増加を「宗教的・社会告知的な意味合いが薄れ、プライベートな儀式という性格が強まっているから」とみる。
「最近、葬式で泣いている人をあまり見ない。高齢化で長患いの末に亡くなる人が増え、遺族もある程度あきらめがついているからでは。現在、火葬だけで済ます形は首都圏で約1割。”遺体処理的”な形へのスリム化はさらに進むでしょう」
一方、雑誌「SOGI」編集長の碑文谷創さんは「ここ数年、確かに金をかけた社葬は激減し、地味葬が増えている。ただ、それは葬儀軽視とか不要論ではないはず」と分析する。
「葬儀は悲しみを和らげる一つのプロセス。葬儀をしなければ死をあいまいなものにしてしまう。火葬だけなど外形的には簡略化されても、本質的な意味での葬儀の重要性はこれからも維持される一方、伝統にとらわれない多様な形が増えていくと思う。地味葬もその一つ」と話している。
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